世界中から注目されるストラスブールの交通政策を知ろう
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ストラスブールには毎年のように世界中の各都市から議員さんや市長さんなどがやってきます。 しかし、彼らは世界遺産である大聖堂や、木組みの家コロンバージュを見るためにやってくるわけではありません。 彼らはストラスブールの交通政策を学ぶためにストラスブールにやってくるのです。 ストラスブールの行った過激とも思えるような交通政策はいかにして成ったのか。 そして、市民はそれをどう受け止め、どのような変化をストラスブールにもたらしたのか。 そして、いかにしてフランスナンバーワンのエコロジーシティへと成り得たのかをここで説明したいと思います。 |
暗く澱んだ街 ストラスブール 1989年以前、ストラスブールは薄暗くて陰鬱で澱(よど)んだ、排気ガスにまみれた、けして人々に印象の良い街ではありませんでした。 街は車が縦横無尽に走り、どこを見ても駐車場と違法駐車だらけ・・・。 観光の目玉であるストラスブール大聖堂の前でさえ駐車スペースとなっていました。 今は巨大なクリスマスツリーがあることで有名な街の中心クレベール広場の前には毎日5万台の車が通過しました。 巨大な道路が街を走り抜け、人々は車に轢かれないよう注意しながら観光せねばなりませんでした。 それが今では街で車をかなり見かけなくなりました。 街を縦横に走る道は、歩行者と路面電車のものとなっています。 合計535キロにも及ぶ整備された自転車専用道路はヨーロッパナンバーワンです。 たくさんあった駐車場はなくなり、(あるいは地下に移動され)開いたスペースは市民のための新たな憩いの広場となりました。 そう、ストラスブールは観光と人々に優しい「エコシティ」へと生まれ変わったのです。 なぜそんなことが可能だったのか? どういう経緯でそうなったのか? 実はストラスブールは最初からエコシティを目指したわけではありませんでした。 改革の結果としてエコシティへとなったのです。 その辺からまず説明してみましょう。 1989年以前の市長は、車社会を作ることが市民の幸せになると考えてきました。 まだエコロジーへの関心も考え方も希薄だった時代です。 よりたくさんの駐車場を街に作れば、より市民が利用してくれるわけです。 それが経済を発展させ、街を豊かにしていくと歴代の市長は考えてきました。 その考えに基づいて、過去の市長たちは街の空いたスペースを壊して、たくさんの道路と駐車場を作ることに集中してきました。 結果として、街は車に溢れ、違法駐車と排気ガスにまみれた街となりました。 皮肉なことに、車に便利にすればするほど、市民は車を買い、結果、市はよりたくさんの駐車スペースを必要とするようになっていました。 駐車場を作れば作るほど、より多くの駐車場が必要になるのです。 それは無論観光客にとってはけして良い状態ではありませんでした。 乱れた景観と排気ガス、そして車に注意しながら観光を行ってきました。 そして結果として、ストラスブール市民にも嬉しくない状態となっていたのです。 ストラスブールの一番の魅力はなんでしょう? ストラスブールとはどんな街で、何を主要産業として生きて行きたいのでしょうか? それは、一言で言えば観光であると言えます。 世界遺産でもある歴史ある大聖堂、ヨーロッパ一とも言われる年間150万人が訪れる1570年から続くマルシェ・ド・ノエル(クリスマス市)。 ならば、観光客に優しい街作りをしていかなければいけないのではないでしょうか? 観光客に優しい街づくりが、ひいては街の経済を発展させ、私たち市民の幸せへとつながっていくのではないでしょうか? そう説いた人物がいます。 それが1989年に市長に当選したカトリーヌ・トロットマンという女性市長だったのです。 トロットマン市長は、一見過激とも思えるような交通政策を実施し、街をがらりと変えました。 トロットマン市長の行ったこと トロットマン市長は街から車を排除してしまおうと考えました。 「駐車場を作るからよりたくさんの駐車場が必要になるんだ。だったら駐車場を壊してしまえば良いんだ。路上駐車や大通りのせいで景観が乱れるなら、それも壊しちゃえば良いんじゃないか。そうすれば観光客が車を気にしないで安心して観光をすることができるだろう。」 トロットマン市長は相当過激なアイデアを実行しました。 当然ながら市民の反対は強いものがありました。当たり前です。 車が来なくなったら街のお店の商売は上がったりですから。 商店街を中心にかなりの反対がありました。 騒音が増えるという反対運動もありました。 トロットマン市長はその説得と保証にも大変な時間と費用をかけました。 次に市長が考え出したアイデアは、「街に路面電車を作ること」でした。 当時のイメージでは、路面電車は古い路面電車のイメージがすごく強くて、古臭くて時代に合わないものというイメージでした。 市長はこれを一新させました。 モダンで新しいデザインを取り入れて、綺麗で、窓を大きく取って透明感を与えれば、走る回廊のようなイメージにならないだろうかと市長は考えました。 これが市民に使いやすい「ニュートラム(LRT)」という発想です。 また、明るく透明感のある路面電車なら、それを観光のイメージとして活用できるのではないかとも市長は考えました。 実は当時、地下鉄を作ろうというアイデアもあったのですが、地下鉄だと掘削工事のため路面電車の4倍の費用がかかります。 それから地下鉄だと外が見えませんから、観光のイメージアップには活用できないわけです。 ・車を街から排除して、代わりに縦横に路面電車を整備する。 ・市民にも観光客にも路面電車で街の中心に行ってもらおう。 ・そして、それに伴って、今まで路上駐車や巨大駐車場・道路に使われていたスペースを綺麗に整備すれば、観光客に最適な環境が整うはず。 市長の計画は、市民の反対、木に掴まってでも工事を止めさせようとする人など、紆余曲折はありながらも着々と進みました。 そして、1994年、ついにストラスブールで新しいタイプの路面電車が開通するに至りました。 路面電車ができてどうなったか? 市民は意外にも路面電車を受け入れました。 ともかく皆、この綺麗で新しいタイプの路面電車に乗りたがったのです。 それに伴って行った自動車の街からの排除、道路の廃棄、環境整備で、街はがらりと姿を変え、非常に心地良い街となったのです。 それと共に、市長は自転車道の整備に力を入れました。 市民の街へのアクセスに、路面電車に加えて、自転車を活用して欲しいと考えました。 次から次に作られる自転車道。 現在では自転車専用道だけで全長535キロにまで伸びました。 車のいらない社会に。 正直に言うならば、ストラスブールは車にとっては非常に心地悪い都市となりました。 多過ぎる一方通行、足りない駐車スペース、高い駐車料金、渋滞、そして街の中心へアクセスもできません。 それはわざとそうなっているわけです。 これが新たな動きを作り始めました。 市民にとって車がいらなくなってきたんです。 市民は街へのアクセスには路面電車か自転車を用いるようになりました。 すると、車を使う必要が減ってきました。 せいぜい週に一回の、街の外のスーパーへの買出しくらいです。 週7日あるうちの6日は車庫で眠っているわけです。 もったいないじゃないですか? 車はどんどん無用の長物と化してきました。 それがカーシェアリングというものを発展させました。 週に6日は車庫で車が眠っている。それならその6日を他の人が車を使ってくれれば、効率がすごく良いわけです。 個人ではさすがにカーシェアリングを行っていませんが、カーシェアリングの会社が生まれました。 会社が100~500台の車を所有します。 予約は必要ですが、30分前でも良いのでネットか電話で予約すれば車が使えます。 月に100ユーロ程度の費用がかかりますが、その代わり車の修理や事故後の対処などの心配がありません。 なにより、車を自分で所有すれば、車庫代、税金、ガソリン代、修理費用で、結局のところ毎月の費用は300~400ユーロになると言われています。それが100ユーロで済むわけです。 しかも、修理などの心配がありません。 車の要らない社会はカーシェアリングを発展させました。 パーク・アンド・ライドの実施 さらに市長は、市外から車でやってくる観光客にも路面電車の利用を促しました。 それがパーク・アンド・ライドです。 路面電車の駅の端には、8つの巨大駐車場が作られました。 そこに車を駐車すれば、わずか2.90ユーロで1日中車を駐車することができます。 さらに、同乗者最大7人分の往復の路面電車のチケットが渡されます。 普通に路面電車を利用するときの往復の料金が3.20ユーロですから、これは破格の値段です。 駐車料金+7人までの往復のチケットで2.90ユーロです。 もちろん大赤字です。 ここまでやらないと街から車は減らせないのです。 ここに市長の交通政策の熱意が表れています。 現在では全乗客の4%がこのパーク・アンド・ライドを利用しています。 こういった複数の交通機関を組み合わせる方法をインターモーダリティと呼びます。 結果、どうなったか? 市民は街へ行くのに自転車か路面電車を用いるようになりました。 街の中心街には車での進入が減り、93本の道路が歩行者天国となりました。 駐車場は取り壊され(または地下に移され)、憩いの広場や歩行者専用道路となりました。 1994年と1998年を比較するだけで公共交通利用者が43%増えました。 1995年から2008年で公共交通トリップ数は72%増加しました。 路面電車の定期券購入者は2008年から2009年だけで40%も増加しました。 低いフロア、障害者に優しいつくり、広いドア、大きな窓、冷暖房を備えたニュートラムは市民の路面電車の古いイメージを刷新しました。 市民は以前より自動車を必要としなくなりました。 結果として、2009年、ストラスブールはフランス一のエコロジーシティと認定されました。 例外の車と路面電車の速度 もうストラスブールの交通政策は大体おわかりになったかと思います。 かなり過激な案でありながら、忍耐強く改革を進め、結果として市民の満足度を上昇させたストラスブールの交通政策は世界中で高く評価され、毎年のように議員さんや研究者が訪れるわけです。 この評価に最も驚いたのは実はストラスブール市自身だったかも知れません。 フランスのLe monde 紙は 「この政策は1976年にすでに構想されてはいたが、今までどの市長も敢行する勇気を持たなかった。」と評し、 経済紙 Les echos は 「ストラスブール市は都心を車から解放した。」 と賞賛しました。 その後、ストラスブールの成功を基に、フランスの各都市で路面電車が導入されました。 さて、街への自動車の侵入は困難なわけですが、少しだけ例外があります。 救急車両や警察は進入を許されています。それから、商店への商品搬入のための車は、時間制限付きで街の中心への侵入が許されています。 それから、もともと街の中心に住んでいた住民の車は、毎月10ユーロの駐車料を払うことで、一定のエリアへの駐車が認められています。 ストラスブールの路面電車は、路面電車優先信号システムを採用することにより、平均速度21.3キロを記録しています。これはパリの地下鉄の平均速度と変わりません。 その後の市政 トロットマン市長は結局1995年にも再選され、12年間市政を取りました。 その次の選挙では、アイススケート場やショッピングセンター、コンサートホールなど派手な政策を掲げたケラー市長に敗れますが、その後のケラー市長も、リス市長も、路面電車の拡張と、それを基にしたトロットマン市長の良い部分と基本方針は変えずに受け継ぎました。 ストラスブールの 交通政策から学べること さて、ストラスブールの交通政策はあなたの街にも活かせるでしょうか? それはあなたの街によります。 あなたの街は何を主要産業としていて、何が売りなのでしょうか? そして、どういうことを市民は求めていて、何が市民の幸せにつながるでしょうか? ストラスブール市は観光政策が主要産業でしたから、こういった大改革が行われ、成功したわけです。 なので、同じくして観光が主要産業ともいえる都市、ランスやパリなどは大いに活かせる部分があると思います。 例えばパリは世界一の観光客が訪れる都市なわけですが、同時に世界一観光客に優しい都市にはなれていません。 パリの地下鉄は臭く汚く、分かりづらく、スリなどが多く安全ではありません。 観光客にはけして優しくない都市です。 しかし、例えば工場とか、機械産業が売りの都市ならば、同じ政策をして成功できるとは限らないわけです。 緑地を潰してビルを建てて、経済を発展させるのが市民の幸せにつながるのか? あるいは逆に緑地を残して、有効な土地利用政策を進めていくのか? どちらが正しいという答えは実はないと思います。 それは市民が何を望み、何が主要産業であるかによって変わります。 それを見極めて政策を行うこと、市政の本質は市民の幸せのためにあるのだということをストラスブールの改革は教えてくれます。 皆さん、ぜひストラスブールを訪れてください。 そして、大聖堂やアルザスの建物だけでなく、街づくりにも注目して観光を行ってください。 きっと観光が何倍も楽しくなることでしょう。 注意: このページはストラスブールの交通政策をわかりやすく説明することに重点を置きました。 そのために例外の省略やかなり多くの誇張表現を加えています。 より正しく知りたい方は「学芸出版社 ストラスブールのまちづくり 著ヴァンソン藤井由美」をお読みいただきますようお願い致します。 |
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